◆6
目を覚ますと、彼女がそばにいた。
いや、もちろん同じベッドに入ってるとかそういう意味じゃないけど。ただ彼女はベッドの
すぐ横に座っているだけ。それだけでも、好きな人が手が届く位置にいるっていうのはドキド
キするもんなんだ。
ここが保健室だってことはすぐにわかった。運動部だからそれなりに世話になっているんだ。
それより彼女だ。もう放課後になってからだいぶ時間も経ってるし、どう考えてもたまたま
保健室に来ていたなんてことは考えづらい。
「あ、起きた?」
「あ、ああ。起きた」
声が上擦ったのは、寝起きのせいじゃない。気づいたからだ。彼女が大事そうにその両手で
包むようにして持っているものに。
チョコだ。そして今日は二月十四日。
それで気づかないほど僕も鈍くないつもり。
「えっと、これは……」
恥ずかしそうに彼女は言う。顔だって赤くなってる。たぶん僕も赤くなっているだろう。
「その……好きです」
差し出されたチョコを見て、僕はイケメンのことを思い出していた。
なあ、お前は知らないだろうな。女の子からチョコを貰うのって、こんなにドキドキするん
だぜ?
イケメンはかわいそうな奴だった。たくさんチョコを貰えるから、こんな風な気持ちを感じ
ることはできないんだ。
そして、差し出されたチョコを僕は受け取った。
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