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◆4
僕が力任せに打ち込んだテニスボールは、相手のコートで一回バウンドした後、さらに向こ
う側へ、ボールが外に行かないように張ってある金網にぶち当たった。
これで一ゲームを僕が取ったわけだけど、まったく嬉しくは思えなかった。
ああ、ちくしょう。
「なかなかやるね」
向こうのコートから対戦相手が話しかけてくるが、それに言葉を返す気力が僕にはなく、黙
ったままサーブの態勢に入る。
うるせえよ、イケメン。
僕は心の中だけで毒づいた。
部活が始まる前、両手にチョコを抱えて部室へ入ってきたこいつは、よりにもよって僕にこ
う言ったのだ。
「おすそわけ、一個あげる」
いらねえよ! そう叫んでやりたかった。でも、それも格好悪いような気がして、僕はそれ
を素直に受け取っていた。
カバンの中には、そのチョコが一個だけ、もらった時のままで入っている。
考え事をしていたら、相手に一ゲーム取られてしまった。
「あと一ゲームで僕の勝ちだね」
わかってるよ、そんなこと。だからわざわざ言うな。
チェンジコートになって、僕は彼とネットわきですれ違って、反対側のコートに入った。
レシーブの態勢に入って、イケメンをじっと見つめる。
整った顔だ。やっぱり女ってやつは、こういう顔のほうが好きなのだろうか。
サーブを返すと同時、僕は前に走った。少しキツめに打ったから、相手のボールは少し遅め
でコートに入ってくる。
そこをネット前に滑り込んだ僕は思いっきり相手コートに叩き込んだ。
「クッ」
イケメンの悔しそうな声。ざまあみろだ。思い知ったか。
次も同じような戦法でポイントを取っていって、次にポイントを取ればイケメンに並ぶとこ
ろまで僕は来た。
力を込めてイケメンのサーブを返す。
前に出た僕を見たイケメンはボールを上げる。僕の頭を越そうってわけだ。
でも、高さが足りていない。これじゃあ逆にチャンスだ。
もちろん、そのチャンスを見逃してやるつもりはない。
僕は位置を合わせようと上を見上げた。
「あれ?」
ところが、僕の視線はボールとは全く違う場所に向いてしまった。
四階の窓。図書室から僕を見ている人がいる。
彼女だ。
「あっ」
よそ見していたせいで反応が遅れた。かろうじて相手コートに打ち返したものの、ボールが
弱い。これじゃ、今度は相手のほうがチャンスだ。
イケメンがニヤリと笑ったのが見える。そりゃそうだ。こんなチャンスめったにない。
そして、僕が無理に打ち返そうとしたおかげで崩れた体制を立て直す前にそれは来た。
ボールがまっすぐにこちらに向かって飛んでくる。
図書室から僕を見ていた彼女の口が「危ない」という形に動いた気がした。
――あ、痛てっ……。
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