◆3
 あ、一ゲーム取った。
 私は周りのことを忘れて、思わずガッツポーズしてしまう。目の前に座る人が何だとばかり
にこっちを見てくるけど、気にしない。だって嬉しいんだもん。
 ここは放課後の図書室。だから本当は声をだして喜びたいけど、ガマンしている。
 この静かな場所で、残念ながらそこまでする勇気もないし。
 いつもは好きなこの場所の雰囲気も、今だけは恨めしい。
 人によっては落ち着けないなんていうけど、私はこの図書室の静けさを気にいっている。
 あ、でも三年生の張りつめた空気は苦手かも知れない。受験に向かって余裕がない感じ。ま
だ一年生の私はちょっとだけ申し訳なく思えちゃう。
 今だって、机の上に参考書を広げてはいるものの、窓際の席に陣取った私はよそ見をして、
彼がテニスしている姿をじっと見てる。
 あ、今度は一ゲーム取られちゃった。
 どうしよう。このゲームを取られたら彼が負けちゃう。
 ドキドキしながら彼の試合をもっと見ようと窓のほうに体を寄せると、ふと床に置いたバッ
グが目に入った。
 私の作ったチョコレートはその中に入ったままになっている。もうバレンタインの放課後な
のに、私はまだ彼にチョコレートを渡せていない。
 でも大丈夫。彼の部活が終わったら渡す。絶対に渡すから。
 そして言うんだ。この気持ちを。
 やっぱり、二人きりの時にそういうことは言いたいよね。
 だから教室では言わなかったんだ。
 びっくりするかな? 彼。
 それとも、もう知っていたりはしないよね?
 ああ、早く彼の部活が終わらないかな。待ち遠しいよ。

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