◆2
 僕は坂の下から、その上のほうを見上げた。
 背後の赤い空に比べると、少しだけ青に近い黒。
 角度が合えば、こうして坂の下から上を見上げると、まるでこの坂が月へと続いているよう
な眺めになるらしい。
 でも、その時間にはまだ早い。
 まわりは住宅街でもあるから、この時間だと漂ってくる夕飯のにおいのほうが僕には気にな
った。
 お、あそこはカレーだな。
「腹へった」
 思わず僕はつぶやいた。
 カレー……いや、ラーメンがいいな、夕飯は。
「そうだね。早く帰ろう」
 隣で一緒に歩く彼女も僕と同じようだ。いや、早く帰ろうの言葉のわりに歩調を早めないの
は、そうでもないのかな。
 彼女と一緒に坂を登る。
 傾斜がきついから、緩やかな歩調がさらにゆっくりになった。
 ふと、気になる。
 彼女は僕のことをどう思っているんだろう。
 好いてくれてる?
 そこまでの自信はないなあ。
 でも、嫌われてはいないだろう。こうして、一緒に並んで帰っているんだし。
 うん。だから大丈夫。……なにが?
「どうしたの?」
「あ、いや。何でもない」
 彼女から急に話しかけられ、少し慌ててしまった。
「変なの」
 笑う彼女。
「またね」
 彼女のその言葉で気づく。
 いつのまにか、坂は終わっていた。
 僕と彼女はいつもここで反対方向に分かれていく。
 手を振る彼女に、僕も片手をあげて応じた。
――そうか、わかった。
「また明日」
 僕の言葉に、彼女はうなずいてこちらに背を向ける。
 その背中に、僕は目を離せずにしばらくの間そこに突っ立っていた。
 どうしてこんなに彼女のことが気になるのか。それがようやくわかったからだ。
 「明日なんだな。バレンタイン」

前のページへ 次のページへ

TOPへ