◆1
 気づいてないよね?
 私は彼のことを見つめていた。近くでなんか無理だから遠くからだけど。
 およそ、五メートル。
 放課後のガヤガヤした教室では、そのちょっとした距離でも私の小さな体は隠れてしまう。
 だから、気づいてないよね?
 私が、あなたのことが好きなこと。
 数人の友人に囲まれた彼は、とても楽しそうに笑っていた。
 それが私の胸をチクリと刺す。私はまだ、あなたのことで知らないことが多すぎる。
 でも、その時、彼が私のほうを見た。目があった。
 ドキッと胸が跳ねる。彼がほほ笑んだ。
 嬉しい。気づいてくれて。
 でも、見つめあえる勇気なんて私にはないから、すぐに目を逸らしちゃう。
 視線を彼に戻すと、彼はもう友達との会話に戻っていて、私は残念な気持ちでいっぱいにな
った。
 だから、私は笑う彼に向って、あくまで心の中だけど、言う。
 あのね、私は勇気がないからまだ言えないけど、言うよ。ちゃんと。
 でも、ちょっとだけ待ってね。
 ――バレンタインまで。

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